沢木耕太郎著『凍』を読んだ感想

私的評価

沢木耕太郎著『凍』を図書館で借りて読みました。

8000mにわずかに届かないという理由で、当時はあまり注目されていなかったヒマラヤのギャチュンカン。そんな未知の山に、登山家の山野井泰史さんと妻の妙子さんが挑みました。

無事に自力で下山したとはいえ、内容を読めば、それがまさに「奇跡の生還」だったことがわかります。極限の状況での闘いがリアルに描かれており、思わず息をのむ場面の連続です。

凍傷で手足の指を失いながらも、生きて帰ってきた二人。その強さと絆に、深い感動を覚える作品でした。

★★★★☆

『凍』とは

沢木耕太郎著『凍(とう)』は、2005年9月に新潮社から刊行され、2008年10月に文庫化されたノンフィクション作品です。世界的なアルパインスタイルの登山家・山野井泰史と妻・妙子が、ヒマラヤの難峰ギャチュンカン北西壁に挑む姿を描いたノンフィクションです。。

出版社内容情報
最強のクライマーとの呼び声も高い山野井泰史。世界的名声を得ながら、ストイックなほど厳しい登山を続けている彼が選んだのは、ヒマラヤの難峰ギャチュンカンだった。だが彼は、妻とともにその美しい氷壁に挑み始めたとき、二人を待ち受ける壮絶な闘いの結末を知るはずもなかった―。絶望的状況下、究極の選択。鮮かに浮かび上がる奇跡の登山行と人間の絆、ノンフィクションの極北。講談社ノンフィクション賞受賞。

目次
第1章 ギャチュンカン
第2章 谷の奥へ
第3章 彼らの山
第4章 壁
第5章 ダブルアックス
第6章 雪煙
第7章 クライムダウン下降
第8章 朝の光
第9章 橋を渡る
第10章 喪失と獲得
終章 ギャチュンカン、ふたたび

著者等紹介
沢木耕太郎[サワキコウタロウ]
1947(昭和22)年、東京生れ。横浜国大卒業。ほどなくルポライターとして出発し、鮮烈な感性と斬新な文体で注目を集める。『若き実力者たち』『敗れざる者たち』等を発表した後、'79年、『テロルの決算』で大宅壮一ノンフィクション賞、'82年には『一瞬の夏』で新田次郎文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです) ※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。

紀伊國屋書店

感想・その他

この本を読んで最も強く心に残ったのは、妻である妙子さんの「精神の強さ」(もちろん登山家としてもスゴイ)です。登攀前から体調を崩し、ほとんど食事を取れないまま、過酷な9日間を耐え抜きました。

その間には、雪崩に巻き込まれて宙を舞い、ロープいっぱいの約50メートルも落下。左手の手袋を失い、頭部右側や右肩、右ひじを強打。さらに頭には約8センチもの裂傷を負ったといいます。それでも彼女は生きることをあきらめず、視力を失いかけながらも、ベースキャンプまであとわずか300メートルという地点まで自力で下山したのです。

「人間、あきらめなければ死なない」――妙子さんのこの言葉には、極限の状況を生き抜いた者だけが持つ真実の重みがあります。その姿は、まさに“静かなる強さ”そのもの。彼女の存在こそ、この物語の核心であり、読む者に深い感動と勇気を与えてくれます。

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