私的評価
フジテレビ制作のスペシャルドラマ『北の国から '84夏』を観ました。DVDでの視聴です。
このドラマを観てとくに思ったこと。それは、とにもかくにも五郎を反面教師として、イライラしていても子供にあたらない。そんなことを強く思った『'84夏』でした。
★★★☆☆
作品概要
プロデューサーは中村敏夫。原作・脚本は倉本聰。
出演は田中邦衛、吉岡秀隆、中嶋朋子、地井武男、竹下景子ほか。
1984年9月にフジテレビ系列で放送されたスペシャルドラマの第二弾です。夏休み、中畑の妹・ゆり子が息子と共に麓郷へやって来た。その息子はパソコンを持っており、時代に取り残された気がした純はショックをを受ける。雪子は、元不倫相手の井関が離婚し復縁を望んだため東京へ戻る。
作品の紹介・あらすじ
純(吉岡秀隆)と正吉(中沢佳仁)は中畑(地井武男)おじさんのところに帰省中の努(六浦誠)がパソコンを自由自在に操るのを見てショックを受ける。東京を離れて4年。都会はだいぶ進んでいるようだ。さらにショックだったのは努から「お前のおやじにはがっかりしたよ」と言われたことだった。今年の春、丸太小屋を焼失してからというもの父・五郎(田中邦衛)は確かにパワーがなくなっていた。もうひとつ純の心にひっかかることがあった。丸太小屋が焼けた原因は純の不注意からだったが、純は黙っていた。正吉は正直に責任を認めたのに…。
『北の国から '84夏』BSフジ
感想・その他
この『'84夏』といえば、なんといっても有名すぎるセリフ――「子どもがまだ食ってる途中でしょうが!」
ドラマを知らない人でも、この一言だけは耳にしたことがあるのではないでしょうか。それほどまでに強烈に心に残るシーンが、この回にはあります。
この名シーンが繰り広げられるラーメン屋で働く店員を演じたのは、伊佐山ひろ子さん。あの苛立ち、愛想のなさ、冷たさ…すべてが完璧にハマっていて、いかにも“機嫌の悪いパート店員”というリアリティが全身からにじみ出ていました。その店員さんも、早く帰りたい事情があったのでしょうね。今日は早く帰るぞ、午後からはそればかり考えていたのに、閉店間際になんだか訳ありの親子が入店。「チェッ!」、多分、五郎親子にも聞こえるような舌打ちをしたことでしょう。そんな裏の事情がない限り、あんな店員っていないですよね(笑)。しかも、ラーメンってそんな早く食べられないって。それにしても、螢と五郎で割れたどんぶりとラーメンを片付ける場面は、とても切なすぎました。
この回では、登場人物それぞれの“弱さ”や“ズルさ”がこれでもかと浮き彫りになります。
五郎は借金に追われ、働く気力すら失いかけている状態。かつてはどんな困難にも立ち向かってきた男が、今は何をするにも投げやりで、覇気がなく、自分を責めることしかできなくなっている。
一方、純はというと、いつものように“悪気のないウソ”をつきながらも、そのたびにどこか後ろめたさを感じている様子が伺えます。全部が嘘なわけではないけれど、ちょっとした隠しごとや取り繕いが重なって、自分でも整理できない状態に追い込まれている。つまり、自分の弱さと向き合えず、逃げてしまう。これは、多感な年頃の少年にはよくあることかもしれません。
そんな中で、いちばん“まとも”に見えるのが、妹の螢。彼女は年齢のわりにしっかりしていて、大人たちの不安定な感情を敏感に感じ取り、空気を読んで行動しています。家族の中で最も冷静で、最も健気な存在。それが逆に、胸を締めつけるのです。
純と螢の叔母である雪子(竹下景子)も、どこかフワフワとした“いい加減さ”を持ち合わせており、頼れるようでいて、実は感情に流されやすいところがある。そして、そんな雪子に本気で惚れ込んでいたのが、草太兄ちゃん(岩城滉一)。女好きでお調子者、でもどこか憎めない。情に厚く、誰よりも真っ直ぐ。そんな草太が、結婚直前で雪子から「別れたい」と言われてしまう。裏切られたとはいえ、草太は恨み言ひとつ言わない。傷ついて、打ちのめされたはずなのに、黙ってそれを受け入れる姿が、あまりにも切なく、そして男らしいのです。
この『'84夏』は、単なる“泣ける名シーン”の回ではなく、人間の弱さ、葛藤、諦め、そして小さな希望の光までもが、リアルに描かれています。
ラーメン屋のシーンひとつをとっても、誰の視点から見るかによってまったく違う物語が立ち上がる。そんな奥深さが、この『北の国から』という作品の魅力だと思います。
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